ロケーションベースサービスとは
ロケーションベースサービス (LBS) は、経路検索、資産トラッキング、マーケティングキャンペーンといったアプリケーションに、地理的コンテキストを提供します。Wi-Fiロケーションベースサービスは、アクセスポイント (AP) からクライアントデバイスまでの測距技術に基づいて、位置を判定します。このため、正確なロケーションベースサービスを実現するには、クライアント測定の基準点となるAPの正確な配置が必要です。
ロケーションベースサービスの説明
ロケーションベースサービスは、ロケーションアウェアなアプリケーションを実現するために必要です。次のような無線テクノロジーが利用できます。
- Wi-Fi測距技術: 802.11mc (精密時間測定) またはReceived Signal Strength Indicator (RSSI) 法
- ウルトラワイドバンド (UWB): きわめて高い周波数で動作し、センチメートルレベルの精度を実現するには高価なオーバーレイネットワークが必要
- Wi-Fi APで使用可能なBluetoothバッテリ動作ビーコン
ロケーションベースサービスのユースケース
デジタルモダナイゼーションの加速に伴い、ロケーションアウェアサービスの実現と拡大が進んでいます。その例としては、経路案内、高価値資産のトラッキング、小売業でのカスタマーエンゲージメント、ビジネスアナリティクス、スマートオフィスイニシアチブなどが挙げられます。ただし、屋内でのロケーションサービスを望み通りの範囲に展開したり、屋内環境と屋外環境でシームレスなユーザーエクスペリエンスを提供したりするには、既存のソリューションで要求される複雑さ、コスト、手間が障害となります。
ロケーションベースサービスの市場機会
Gartnerの予測によれば、屋内ロケーションサービスの市場規模は、2021年の19億ドルから、2030年までに550億ドルに拡大する見込みです (Gartner、Emerging Technologies: Revenue Opportunity Projection for Indoor Location Services)。この成長を牽引する最大の要因は、トラッキング可能なIoTデバイスの増加です。屋内ロケーションサービスは、医療、小売、宿泊、物流、工業、製造といったアプリケーションですでに広く用いられています。
屋内ロケーションサービスと屋外ロケーションサービスの違いは何でしょうか。
屋外ロケーションサービスでは、見通し線があるため、GPSが利用可能です。屋内ではGPSは使用できません。たとえば、屋外でスマートフォンのGoogle Mapsを使用する場合、数メートルの精度で位置を計算できます。一方、屋内でGoogle MapsやApple Mapsを使用する場合、測定誤差はこれよりずっと大きくなります。
過去20年にわたり、業界では正確な屋内測定を可能にする新しい方法が研究されてきました。Wi-Fiロケーションベース測定は、802.11mc規格 (別名Wi-Fi CERTIFIED Location) に基づく精密時間測定 (FTM) 技術を使用することで、往復時間を計算できます。APは、クライアントデバイスの基準点の役割を果たすため、自身の位置を精密に知る必要があります。
Wi-FiロケーションベースサービスでのAPの役割
APは、クライアントデバイスを測定する際の基準点の役割を果たします。従来の方法では、IT部門はAPを手動でマッピングし、サイト固有の手書きのマップ上に配置していました。これは誤差の原因となります。APが移動されてもマップは更新されないからです。また、測定値は通常X-Y座標に固定されており、Google MapsやApple Mapsといった標準的なマッピングアプリケーションでは使用できませんでした。手動作業が必要なため、調査によれば、現在マッピングされているAPの割合は25%に留まります。
Arubaが発表した自己位置情報検出型APは、一般的な基準フレームワーク (緯度/経度) を使用して、自身の位置を自動的に計算します。これにより、ロケーションベースサービスの大規模な展開が大幅に容易になりました。
屋内でのGPS信号の弱さという課題をAPはどのように解決するか
スマートフォンに搭載されているようなモバイルGPSレシーバーは、屋内では動作しません。これらのレシーバーは、動きの激しいモバイルデバイス内で、迅速に位置を判定して、ナビゲーションをサポートするという制限の範囲内で、うまく動作するように最適化されています。これに対して、APのGPSシステムでは、静止した屋内のユースケース向けの最適化が可能です。この場合、ある程度の時間と安定性があるため、長時間にわたって測定値を積分したり、異なる時刻に行われた測定を組み合わせることで、衛星が都合のいい位置に来るタイミングを探したりすることができます。同じ施設に設置された複数のAPの間で位置情報を共有できるため、空を比較的よく見通せるAPから高品質の支援を提供することで、空を見通せないAPの感度を高めることができます。FTMによって相対位置を精密に知ることができるので、複数のAPの測定値を組み合わせることで、個々の位置を計算できます。
Wi-Fi 6Eおよび将来のWi-Fi 7で正確な位置情報が必要な理由
Wi-Fi 6Eおよび将来のWi-Fi 7の6 GHzバンドでは、Low Power Indoor (LPI) デバイスの使用がすでに承認されていますが、これより高い周波数では、既存ユーザーの保護が規制によって要求されています。Federated Wirelessなどが提供するAutomate Frequency Coordination (AFC) サービスは、位置情報を利用して既存ユーザーを保護することで、US FCCモデルに従う国で1200 MHzの追加スペクトルを利用可能にします (ヨーロッパの多くの国では500 MHz)。6 GHzバンドでのこの追加容量により、速度と密度が向上し、高精細度ビデオや仮想現実といった新しいユースケースが拓かれます。
802.11mcとは
802.11mcはIEEEによるWi-Fiの定義であり、FTMと呼ばれる測距テクノロジーが含まれています。信号強度 (RSSI) に基づく従来の測距テクノロジーと異なり、FTMは往復時間を使用することで精度を改善しています。信号強度によって得られる精度が10メートル程度であるのに対し、FTMでは、AP基準点の配置精度しだいで、1~2メートルの精度が得られます。Wi-Fi Allianceは、802.11mc機能を備えたソリューション向けに、Wi-Fi CERTIFIED Location®と呼ばれるベンダー認証を用意しています。Arubaは、Wi-Fi Location認証を取得している唯一のエンタープライズAPベンダーです。
802.11azとは
802.11azはIEEEの修正であり、次世代ポジショニング規格とも呼ばれます。最近完成したこの規格では、FTMを使用して、1メートル以内という高い精度の絶対および相対位置決定を実現できます。これはウルトラワイドバンド (UWB) と同等の精度ですが、大規模なオーバーレイ展開は不要です。
Open Locateとは
Open Locateは、APとエコシステムの間で、クラウドベースのAPIを使用して、無線で基準位置情報を共有する方法を標準化するための、業界規模のイニシアチブです。これにより、モバイルデバイスは自身の位置を知り、ワークプレイス利用、スペース分析、ジオフェンシング、経路検索サービスといったロケーションおよび分析アプリケーションをサポートできます。FTMをサポートしないデバイスも、APに内蔵されているWi-FiまたはBluetooth無線による信号強度測距を使用して最寄りのAPまでの距離を計算することで、この仕組みに参加できます。Arubaは、IEEE、Wi-Fi Alliance、およびGoogle、Samsung、Zebra、Tileといったエコシステムベンダーと協力して、Open Locateの策定に携わっています。
ロケーションベースサービスの種類
Wi-Fiロケーションベースサービス技術の比較 | ||||
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Relative Signal Strength Indicator (RSSI) | 到着角 (AoA) | ウルトラワイドバンド (UWB) | FTM (802.11mc/802.11az) | |
説明 | 距離推定のための最も古く、最も精度の低い方法 | BLEと信号強度法の組み合わせにより低い精度を改善 | 高周波近距離測定に基づく位置判定 | きわめて精密な往復時間測定による位置判定 |
制限事項 | 信号が建物や環境内の物体に影響されることで精度が低下 | カスタムRFハードウェアが必要 | 手間とコストのかかるオーバーレイ展開 | Wi-Fi APがFTMをサポートすることが必要 |
精度 | 10メートル | 不明 | 数センチメートル | 1~2メートルから数センチメートル |
Wi-Fiロケーションベースサービスのメリット
Wi-Fiロケーションベースサービスを使えば、経路検索、資産トラッキング、近接マーケティングなどのサービスの導入を、コストのかかるオーバーレイなしで加速できます。ArubaのWi-Fi屋内ロケーションベースサービスには以下の特長があります。
- ITの効率向上: 既存のWi-Fi設備とArubaの自己位置情報検出型APを利用して、アクセスポイントをマップ上に自動的に配置することで、何週間あるいは何か月ものIT作業を省くことができます。
- 自動アップデート: ArubaのAPは、追加/移動/変更後に自動的に位置を更新するので、クライアント測定のためのきわめて正確な基準点の役割を果たします。
- 標準的なマッピングアプリケーションとの容易な統合: 緯度と経度という一般的な基準フレームワークを使用しているので、Google Maps、Apple Maps、Bing Mapsで簡単に利用できます。
- 高精度のクライアント位置決定: Open LocateとFTMを使用して、高精度の位置データをWi-FiまたはBLEフレームを通じてクライアントデバイスに送信します。
Arubaのロケーションベースサービス
ArubaのアクセスポイントはFTMをサポートし、Wi-Fi Allianceの認証を取得しています。
Wi-Fi世代 | APシリーズ |
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Wi-Fi 6E | 650シリーズキャンパス* |
Wi-Fi 6E | 630シリーズキャンパス* |
Wi-Fi 6E | 610シリーズキャンパス* |
Wi-Fi 6 | 580シリーズ屋外* |
Wi-Fi 6 | 550シリーズキャンパス |
Wi-Fi 6 | 530シリーズキャンパス |
Wi-Fi 6 | 510シリーズキャンパス |
Wi-Fi 6 | 500シリーズキャンパス |
Wi-Fi 6 | 500Hシリーズリモート |
* GPS対応