WAN最適化の解説
WANでつながれた拠点間の地理的な距離が増大するとともに、特に低速なトランスポートサービスや長距離のバックホールを利用するリモート国際サイトでは、アプリケーションのパフォーマンスが低下する傾向があります。このような低下は、利用可能な帯域幅だけでなく、いくつかの要因に左右されます。主な要因としては、データパケットがWAN上で往復するのにかかる時間、いくつかのプロトコルで次のデータセグメントの送信前に要求されるデータ受信肯定応答の必要性、パケットロスのために必要となるデータ再送信の回数などが挙げられます。
世界中に拠点を持つ地理的に分散された企業では、過大な往復遅延のために、アプリケーションパフォーマンスの低下が生じる場合があります。特に問題になるのは、トランザクション処理やデータバックアップといった、遅延の影響を受けやすい重要なTCP/IPアプリケーションです。重要なこととして、帯域幅を追加するだけでは現実的な解決策になりません。ネットワークレイテンシの主な原因は、サイト間の地理的な距離にあるからです。このような課題を解決するために採用されるのが、WAN最適化ソリューションです。
WAN最適化の仕組み
WAN最適化の主な目的は、大きいレイテンシ、制限された帯域幅、パケットロスの可能性といった、ワイドエリアネットワーク (WAN) の本質的な制約を克服することです。
TCPプロトコルアクセラレーションは、レイテンシの影響を緩和することで、距離を隔てて動作するアプリケーションの応答時間を改善します。TCPアクセラレーションでは、遅延に対処するために以下の4つのキーコンポーネントが使用されます。
- ウィンドウスケーリングは、送信ウィンドウサイズを増やすことで、肯定応答を受信する前により多くのデータを送信できるようにします。
- 選択的肯定応答 (SACK) は、損失のあるネットワーク環境で、必要なパケットだけを再送信することで、冗長な再送信を回避します。
- 往復時間測定は、パケットロスの際に通常用いられる固定長の肯定応答タイマーの代わりに、実際のレイテンシを使用することで、往復時間 (RTT) 測定値を短縮します。
- 高速TCPは、セグメントがネットワークに送出されるタイミングを制御する輻輳ウィンドウサイズを最適化することで、輻輳制御メカニズムを強化します。標準のTCP輻輳制御では、輻輳ウィンドウが回復するまでに長い時間がかかる場合があります。高速TCPの場合、輻輳ウィンドウのサイズは、増えるときは大きく増え、減るときは小さく減ります。
TCPプロトコル最適化手法は、レイテンシの影響を克服して、距離を隔てて動作するアプリケーションを高速化する効果があります。
データ削減は、以下の方法を使って、WAN上で伝送される冗長パケットのオーバーヘッドを削減します。
- データ重複排除は、重複するデータを削除してフィンガープリントとポインターに置き換えることで、必要なデータだけをWAN上で伝送します。元データはディスクキャッシュに記憶されるので、宛先では重複データを再構築できます。
- データ圧縮は、LZ (Lempel-Ziv) 圧縮などの圧縮アルゴリズムを利用して、伝送データ量を減らします。データ圧縮は、ペイロードとIPヘッダーの両方に適用されます。
データ重複排除はWAN上で伝送される冗長パケットのオーバーヘッドを削減します
パスコンディショニングは、パケットロスやジッターが頻繁に発生し、障害が起きやすいインターネットや無線リンクの影響を緩和します。
- 前方誤り訂正 (FEC):伝送中に失われたパケットを自動的に再構築できるように、ネットワーク上でパリティパケットが周期的に送信され、受信側は再送信を要求せずにエラーを訂正できるので、データの完全性が保たれ、パケットロスの影響が軽減されます。FEC率はエクスペリエンス品質要件に基づいて設定できます。リアルタイムの音声またはビデオアプリケーションの場合は1:1に設定したり、実際のパケットロスに基づいてエラー訂正を自動的に調整する適応型アルゴリズムを使用したりすることもできます。
- パケット順序の補正 (POC):POCは、複数のWANトランスポートリンクの間でトラフィックのロードバランシングを行う場合に、ばらばらに宛先に届いたパケットを正しい順序に配列します。
WAN最適化を検討する理由
- 地理的に分散された組織のサポート
分散型の組織では、多くのブランチオフィスが遠隔地にあり、高速インターネット接続を常時確保するのが困難な場合があります。そのために、エンタープライズシステム間のビジネス情報の共有速度が低下し、ビジネスの速度に影響します。統合型WAN最適化ソリューションを使えば、企業が今日の激しい競争を勝ち抜くために必要なビジネスアジリティを確実に維持できます。 - 帯域幅の効率的使用
WAN最適化を使えば、WAN上で伝送する必要があるデータの量を最小化できるので、音声やビデオなどのリアルタイムアプリケーションのための容量を余分に確保できます。また、医療用画像やエンジニアリング設計ファイルなどの大きいファイルの伝送も改善されます。 - ディザスタリカバリの強化
ほとんどの企業のディザスタリカバリ計画には、1つまたは複数のリモート拠点へのデータのバックアップが含まれます。これらの拠点は、主要拠点から何百キロメートルも離れている場合があります。リモートサイトとバックアップ拠点間の距離が伸びるにつれて、レイテンシが増加し、データ転送に時間がかかるようになります。WAN最適化を使えば、データのレプリケーションとバックアップのプロセスの効率を改善でき、重要なデータをリモート拠点に安全に伝送して保管できます。 - コスト削減
データ重複排除や圧縮といった手法を使用してWAN上で伝送されるデータの量を減らすことで、コストを節約できます。こうして必要な帯域幅を減らすことで、ネットワークインフラストラクチャやWANサービスプロバイダーに関連する費用を削減できます。
WAN最適化のメリットとは
- アプリケーションパフォーマンスの向上
ネットワークのレイテンシは、アプリケーションのパフォーマンスの大幅な低下につながります。WAN最適化で用いられる手法は、レイテンシを減らし、データ転送時間を最小化し、帯域幅の使用を最適化することで、ネットワークパフォーマンスを大幅に改善します。これにより、転送時間が短縮され、データ転送速度が増加し、ユーザーエクスペリエンスが向上します。WAN最適化により、従業員は重要なアプリケーションにより効率的にアクセスできるようになるため、生産性が向上します。 - コラボレーションの強化
WAN最適化は、地理的に分散された拠点に配置されたチーム間の効率的なコラボレーションを促進します。レイテンシを減らし、データ転送を最適化することで、リアルタイムの通信、シームレスなファイル共有、ビデオ会議が可能になります。これにより、チームワークと生産性の向上が容易になり、リモートブランチオフィスで働く従業員にとってメリットがあります。 - 事業継続性
WAN最適化により、バックアップとデータレプリケーションのプロセスが改善されます。データをリモート拠点に安全に伝送して保管できます。災害が発生した場合、WAN最適化によって、データリカバリの速度を上げ、ダウンタイムを最小化し、迅速に事業を再開できます。